感想文:上級国民/下級国民
橘玲さんの「上級国民/下級国民」を読んでみました。
橘さんの本は「言ってはいけない 残酷すぎる真実」など、皆が表立って言わない賛否両論あるテーマを扱っていることが多いです。
この「上級国民/下級国民」も、上級国民/下級国民、正社員/非正規社員、若者/中高年を対比させて、なぜそのような格差が生じたのかを社会情勢や国の規制の観点から考察しています。
私が特に面白いと感じたのは、最低賃金という国の規制が、社会に及ぼす影響の大きさです。
例えば、イタリアは全国一律で最低賃金が設定されています。豊かな北部と貧しい南部の最低賃金が同じなので、南部の人々はより豊かな北部に行こうとも、豊かになれるとは限りません。そのため、南部に留まります。そのため、失業率は同じ国でありながら、南が北の数倍という格差が生じてしまっています。
フランスの最低賃金は約1,275円/時間で、高水準になっています。高額の賃金を出すなら、経験のない若者ではなく、スキルのある中高年のほうが得であるという意識が働き、若者の雇用を圧迫してしまいます。
規制をすることで、地域格差や世代間の雇用格差などの歪みが生じてしまうということですね。
日本でも、正社員の権利が国の規制によって強固に守られているため、不況になると新入社員の雇用が削られてしまします。結果的に、若者は非正規雇用となり、正社員になれなかった若者/正規雇用の中高年の給料格差が大きくなってしまいます。
もし、労働者をリストラしやすい緩い規制だったとしたら、給料に見合わない中高年労働者が解雇されて、給料の比較的安い若者が採用されていたかもしれません。そうすれば、若者/中高年の給与格差は小さくなります。
日本は都道府県によって最低賃金が異なりますが、これは地域間の失業率を均等にするためだったと気付かされました。
それまでは東京は物価が高いから最低賃金も高いのではないかと思っていましたが、それは家賃だけで、野菜や日用品は同価格であることが多いです。地方は家賃は安いですが、自動車が必須であり、車と駐車場の固定費などプラスで負担する必要もありますしね。生活コストは同じくらいになることもあるのに、最低賃金が東京のほうが高いことで、失業率均等化に貢献していると思われます。一方で、東京一極集中も招いていると言えます。
かといって、規制を完全に撤廃することも新たな不平等を生んでしまいます。規制は基本的には弱者を保護する目的で作られています。最低賃金も正社員の雇用の安定も、労働者という立場が弱い人を保護する目的があります。
もしも規制がなくなれば、買い手市場では労働者が安い賃金で買いたたかれてしまいます。
規制は必要ですが、いい面と社会の歪みとなる悪い面があることを理解していることが大切なんじゃないかなと思いました。
橘さんは他にも大卒/高卒の幸福度やモテと非モテ、賃金格差などについて書いていますので、是非読んでみて下さい。